生まれて間もない子猫が、石仏の横にちょこんと座っていた。
石仏の右側には、次のような文字が記されている。
四文字刻まれているようだが、はっきりと読み取れたのは三文字、一番上の一文字は欠けていてよく分からない。
「○了童子」
それがどのような字で、四文字全体でどういう意味を表しているのだろうか。
一番上の欠けている文字の偏は、「幺(よう)」のように見える。「童子」とは幼い子供のことだから、それと関連性のある漢字は「幼」、しかし調べてみても「幼了」の用例は見つからない。
さらに調べてみると、「幻」ならば用例はあった。しかも石仏に、「幻了童子」と刻まれている例があったのだ。幼くして亡くなった子供の墓の側に、このように刻まれた石仏が置かれていた。慰霊のために置いたということなのだろう。
欠けていた字は、「幻」であると断定しても良さそうだ。「了」には「終わり」という意味があるから、「幻了童子」とは、幻のようにはかなく消えて短い生涯を終えた幼子という意味なのであろう。「童子」だから、幼子は男の子、女の子であれば「童女」ということになる。
子猫の横にある石仏には、何やら悲しい物語が隠されているに違いない。それがどうしてこんな所に無造作に放置されていたのだろうか。
次回ここを訪れた時には、子猫が「幻了童子」となってしまわないことを願って、石仏に手を合わせておくことにしよう。