2015年02月24日

早春の漱石山房そして整備計画

早稲田スコットホールギャラリーで開催されている「北田英治の写真講座_写真展」(2月20日〜2月22日)を見に行く途次、久しぶりで「漱石公園」に立ち寄ってみた。漱石の記念館整備計画がそろそろ実施段階に移っているかもしれない、工事の進捗状況を確かめてみようという心づもりだったが、以前訪れたときと何ら変わりのない姿をとどめていた。園内の道草庵にいたシルバーの方に伺ったところ、今年の秋頃から工事が始まるということだった。

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ちょうど梅の花が咲き始めていた。その人に、ついでに梅の木はいつ頃からあったのかと訊ねてみると、山房の敷地の一部が都立公園として整備され、その後改修されたときに植えられたことなどを丁寧に説明してくれた。梅の花にはメジロが二羽飛来して、枝から枝へと軽やかに渡っていた。

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漱石山房は、敷地340坪、建坪60坪の平屋の建物だった。東側の八畳間を書斎として使い、隣の客間には寺田寅彦、内田百閧サして芥川龍之介などの門下生が訪れ、世に言う木曜会がもたれた。明治40年にこの地に居を構えてから、大正五年に没するまでの9年間を過ごしたこの山房は、残念ながら昭和20年の空襲ですべてを焼失してしまった。そしてその跡地の一部が整備され現在に至っている。

<「漱石山房」の変遷と漱石公園の整備>
明治40年9月29日早稲田南町7番地の阿部氏所有の住宅に賃借人として入居
大正5年12月9日漱石死去大正7年6月20日鏡子夫人が土地を購入
大正8年母屋の新築に伴い、書斎・客間部分を曳家して保存
昭和20年4月〜5月空襲により母屋及び旧書斎・客間が焼失
昭和28年12月9日都営住宅の一部を借用して新宿区が「猫塚」の石塔を復元
昭和51年3月31日都営住宅の建替えにより生じた余剰地に漱石公園が開園
昭和61年10月3日区教育委員会が「夏目漱石終焉の地」を史跡指定
平成20年2月9日漱石公園リニューアル開園(漱石生誕140年記念事業)
平成21年漱石公園内交流施設を「道草庵」と命名
((仮称)「漱石山房」記念館整備基本計画より)

夏目漱石は、文学史上余裕派と呼ばれている。余裕は人呼ばれた作家はもう一人いて、森鴎外がその人だ。鴎外の旧居「観潮楼」跡には、2012年に生誕150年を記念してたいそう立派な「文京区立森鴎外記念館」が造られた。そこを訪ねれば観潮楼跡地であっただけに、現在は東京湾を望むことはできないけれど、崖下の家々の屋根を眼下に見渡すことができる。

それに引き替え、漱石山房跡地はどうだろうか。わずかに書斎の東側にあったベランダが再現されているだけである。いや、もう一つ猫塚が復元されてはいるが、それにしても近代文学を代表する文豪を記念する施設としては、新宿区には申し訳ないがいささか残念な感じを抱かざるを得ない。

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しかしそれも過去のこととなりそうだ。漱石生誕150年の平成29年の開館を目指して、記念館整備の計画が進行中なのだ。

◇整備概要
@整備予定地:新宿区早稲田南町
A敷地面積:2137.25(漱石公園を含む)
B延焼面積:1200〜1350u程度
C構造:鉄筋コンクリート造
D階層:2〜3層

◇今後のスケジュール
平成29年2月:記念館開館

漱石の作品「硝子戸の中」は、次のような冒頭で始まる。

『硝子戸の中(うち)から外を見渡すと、霜除(しもよけ)をした芭蕉だの、赤い実の結(な)った梅もどきの枝だの、無遠慮に直立した電信柱だのがすぐ眼に着くが、その他にこれと云って数え立てるほどのものはほとんど視線に入って来ない。書斎にいる私の眼界は極めて単調でそうしてまた極めて狭いのである。』

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この冒頭にあるように、漱石が存命中、庭にあった植物は芭蕉・梅もどき、さらにトクサも生い茂ったようだ。現在の漱石山房でもこれらのものを見ることがきる。はたして当時のものが戦火をくぐり抜けて生き延びてきたのだろうか。梅の木のように、山房を整備・改修したときに復活したものなのだろうか。漱石と同じ時間を過ごしたものであれば、当時を偲ぶよすがともなるのだが…

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posted by 里実福太朗 at 01:37 | ■里ふくろう通信